オータムクラシック他

たまにはブログの方に感想をupしてみることにしました。 

 

 

 オータムクラシック

dailymotionとはいえ、アーカイブを残してくれるのがとてもありがたい!全員の感想が書けないので、お気に入りのスケーターさんたちのみを。

 

女子SP

#ACI19: Ladies Short Program - video dailymotion

紀平梨花  breakfast in bagdahad 78.18

3A 3F+3T FCSp4 3Lo CCoSp4 StSq4 LSp4

 足を怪我していたとは思えない出来です。3Aがびっくりするほど軽い!紀平さんのジャンプって、女子選手にしては珍しい、スカッとするジャンプだなあと思います。

細かい音との調和も素敵だと思うんですけど(特にLSp後の振り付けが好き)、去年のbeautiful stormの出来を思うときっともっと上が見られるはず。楽しみです。

 

・エフゲニア メドベージェワ  Exogenesis 75.14

3F+3T 2A FSSp3 3Lz! CSp4 CCoSp4 StSq4

 パンツスタイルの衣装好き……。テススケではエクソジェネシスはSPだと短いかな?と思いましたけど、見慣れたのかなんとも思わなくなりました。ジャンプが全体的に軽くなっていて、彼女の努力が垣間見えます。3Lzのエッジがどうしてもあと一つなのですが……。

 クリケのスケーティングクラスを彷彿とさせる冒頭部分の振り付けと、曲調がマックス盛り上がるCSp4でのチェンジエッジからのCFポジションが苦闘の中の美という感じで好きです。

  

女子FS

#ACI19: Ladies Free Program - video dailymotion

・エフゲニア メドベージェワ  SAYURI 142.29

3Lz!+2T+2T 3S+3Lo< 3Lze< FCSp4 ChSq1 2A 2A+3T 3F 3Lo FCCoSp4 StSq3 CCoSp4

 伊藤さん作製の桜の着物風衣装がとてもきれいでいいですね。メドちゃんと映画音楽はとても合います。このプログラムだけで、一本の映画を見たかのような満足感があるのが良いです。オリエンタルな優雅で抑制された美も良い。

 太鼓の音から始まるコレオがすごくいいです。体を大きく使ったループ?かな?(いまいち自信がない)がとても音楽にあってると思います。

 なんか2A回りすぎてる感じなんですが私の気のせいかなあ。

 

紀平梨花 International Angel of Peace 145.98

3A+2T 3A< 3F FCSp3 3S StSq4 3F+3T 3Lz<+2T+2Lo CCoSp4 ChSq1 3Lo Lsp4

 6つの宗教曲をかけ合わせたプログラムとは……???

 冒頭の3A、軸が傾いてましたけど何事もなかったかのように降りていて、流石リカキヒラつよい……。いやはやジャンプを軽々と飛びますね。フリップが特に美。今回は不調でルッツを回避気味っぽいとはいえ、フリップもルッツもこんな綺麗に飛べて、3Aも飛べるのがリカキヒラのいいところです。

 正直まだ曲の展開に理解がおいついていないところはあるのですが、よくわからないけどなんだか見入ってしまうパワーがあります。腕の動きがしなやかで本当に綺麗なのも良いです。

 一部の振り付けで物議を醸しているようです。日本では、外国人がこっちの文化に興味を持ってくれると、少しくらい間違ってても、興味を持ってくれてありがとうの気持ちが勝つことが多いように思うのですが(ニンジャとかフジヤマとか)、最近の国際的な流れとしては、ちゃんとした知識がないままステレオタイプで異文化を語ることが批判される傾向にあると思います。

 特に宗教、差別案件はかなり燃えやすいなあと。こういう国際的な競技だと、知識をアップデートしていかないと不用意に燃えてしまうので、注意が必要だなあと思いました。

 

男子SP

#ACI19: Men's Short Program - video dailymotion

羽生結弦 SP Otonal(継続)98.38

 4S<(fall) 3A 4T3Tx FCSp4 CSSp4 StSq4 CCoSp4

 継続というのもあってか、転倒があったとはいえ順調な滑り出しじゃないでしょうか。

 衣装を若干チェンジしましたね。昨年のOtonalが王子だとすればこちらは氷の帝王。首の長い人しか着こなせない、襟の高いカラーが王族みを演出していると思います。3Aあと、ピアノが下からのぼっていき最高音になるところで両手をばっと広げる振り付けがありますが、そこで「即位した……いま即位した……」ってなりました。あそこは即位の振り付け(多分違う)

 深いエッジでゴージャスに滑るのが本当に最高です。4S後の、イナバウアーからLBIの深いエッジを刻むところが秋の深みを感じさせてくれて良き……良きof the year……。7人中4人が5をつけた3Aは、ピアノ最高音とジャンプの回転を合わせるという恐ろしい技で、こちらも素晴らしい……。その後のステップもピアノの音にぴたりと合わせてて、こちらの脳内に麻薬を注入してくるようなスケート。

 スピンのレベルは

 FCSp4 バタフライ CU CS 8回転

 CSSp4 イリュージョン  スピン中のジャンプ (足変え) SS SB

 CCoSp4 (トゥアラビアン) (CS) チェンジエッジ NBP (足変え) SF US

 で去年と変更無し……かな?

 

・チャ ジュンファン SP ミケランジェロ70/天使の死 84.23

 4S+3T< (so) 4T CSSp4 3A FCSp4 StSq3 CCoSp2

 ジュンファンくんは滑るとなんとも言えないノーブルな雰囲気を醸し出すスケーターですね。ステップシークエンスにさりげなくタンゴっぽい振り付けが入ってるのが嬉しい。曲調が変わるところで、イナバウアーをやってからもういっかいイナバウアーで足を踏み込む振り付けがめちゃくちゃかっこいいですね。

 男性スケーターでスピンにこんなきれいなレイバックポジション入れてくる人珍しいのでそれだけで好印象です。

 

・ケヴィン エイモズ SP Question of you 94.76

 4T 3Lz3T CCSp4 3A FSSp4 CCoSp4 StSq4

 前から素敵なスケーターだと思ってたけれど、ここまで点を伸ばしてくるとは!スピンもステップもすべてレベル4!振り付けがすごく凝ってて見ててすごく楽しいスケーターですよね。

 表外ジャンプ〜足変え〜BOカウンターからの3A。着氷後もベスティスクワットっぽい動き(これはバランスを崩しただけかな?)、クラップ音に合わせて振り付けいれてランジ?入れてきたり、もうここの一連の流れを見ているだけでたのしい。

 StSqもコレオですか?????ってくらい色々なムーブが入ってるし、最後は側転で決めるし、いやあいいもの見たなあ。もっとみたいなあ。今年GPF出てほしいな~

 

キーガン メッシング SP Perfect 89.57

 4T+3T 3A FCSp4 3Lz CSSp3 StSq3 CCpSp4

 TLでも言われていましたが、パトリック・チャンの正統後継者といってもよいのでは。

 曲に合わせてこつこつと基本を積み重ねていくスケーティングという印象。解説でも指摘していましたが、スピンの回転速度が早くて全然ぶれないので、安心してみていられます。

 衣装がびっくりするほどシンプルなのはご愛嬌。

 

男子FS

#ACI19: Men's Free - video dailymotion

・チャ ジュンファン  The Fire Within 146.21

4F< 2S 4T<(so) FCSp4 StSq2 3A+1Eu+3S 3A+2T< 3Lz+3Lo<< ChSq1 3Lo CSSp4 CCoSp3

 冒頭4F成功したかと思いきや刺さってましたね。今大会は全体的に回転不足に対して厳しかった印象。

 白のレースの衣装がとても素敵。ジュンファンくんに限らず韓国の選手は素敵な衣装を着ている率が高いような気がします。いいデザイナーさんがいるのかしら……。

  まだ滑り込みが足りないのかなあという印象はありましたが、ジュンファンくんの指先の美しさは健在。コレオのイナバウアーの腕の使い方、首をゆっくり回す振り付けもいいです。その後のゆったりとしたスリーへの動きも非常に素敵。いやほんと腕の使い方が優雅なんですよねえ。

 最後のCCoSpもレイバックポジションでの手の使い方がめちゃくちゃ美!なのでみんな見ましょう。

 

キーガン メッシング November Rain 166.45

4Lz(fall) 4T 3A+2T FSSp4 3Lo 4T(hand)+2T 3S+3T 3A StSq2 ChSq1 FCCoSp3 CCoSp4

 回転不足まつりだった今大会において全く回転不足がない男、キーガン

 衣装がSPの衣装の下に柄物のシャツを着ただけっぽいのはなぜなんでしょ?間に合わなかったとか、単にその方が楽だからっていうのならいいのですが。

 とにかくスピード感がある!ガンズアンドローゼスの曲が合いますね。バレエジャンプの爽快さ、あとはフライングスピンのフライングからスピンの基本姿勢に向かうまでのブレの無さがたまらなく好きです。

 

・ケビン エイモズ Lighthouse(なのかな?) 167.71

4T+2T 4T 3A(so) 3Lo CCSp4 3A+3T<< 3Lz+1Eu+3S< 3F ChSq1 FSSp4 CCoSp4 StSq4

 スピンステップ全部レベル4で揃えられるのが強いですね。

 一つひとつの音を丁寧に拾うプログラム。CCSp~3A+3Tの間で、LBI~スリー?ロッカー?の動きをしてますけど、あそこのLBIの体勢がめちゃくちゃ面白くないですか?

多分JZスライドやってるところがコレオなんですけど、最後のStSqもコレオみたいで、もうずっとコレオグラフィックシークエンス。解説が半分アーティスト、というのもわかります。

 エイモズくんは3Aの入りが結構凝っていて、只々助走するだけの選手も多い中、今回もベスティスクワット~スパイラルからの3A、イナバウアーからの3A+3Tなんてやってたりしますね。そういうところもいいなあと思います。 

 

羽生結弦 origin(継続)180.67

 4Lo(so) 4S(so) FCCoSp4 StSq4 3Lz 4T< 4T<+1Eu+3S 3A+2T(tano) 3A+3T ChSq1 FCSSp4 CCoSp4

 いや衣装!衣装!!!耽美!!!!!紫に薔薇をあしらった衣装を躊躇わず着られるの本当に強い。似合ってるもんね。相変わらずセルフプロデュースの鬼です。最高。一生ついていきます。

 正直、初めの2つのジャンプの激しいステップアウトに度肝を抜かれました。あそこまで体のバランスを崩した羽生さんを初めて見た。平昌FSの3Lzでもあそこまでステップアウトしていなかったような。しかし4Lo後もすぐにベスティスクワットからくるっとまわるあの動きができるのはさすがです。いやほんとあんだけステップアウトして、体が一周りしてるのに、なんで何事もなかったかのように復帰できるんですか????どういうこと????物理法則無視か?????

 ワールドでは4Loが取沙汰されていましたけれど、実際SPでもFSでも得点に効いたのは4Sの回転不足でした。ここにきてようやく転倒なし!回転不足なし!のサルコウさんが帰ってきた!あとはステップアウトをなくすだけですけど、これはまあなんとかなるでしょう。

 StSqのバイオリンを引く振り付けがすごく素敵です。そして初めてのレベル4ですね。このプログラムのステップはプル様へのリスペクト(細かいステップが多く体の動きがなかなかできない)とレベル取りの間で苦しむステップなのかなと思っていたのですが、ここに来て初のレベル4。嬉しいですねえ。

 あの短い助走で飛ぶ3Loが3Lzへ。見るたび笑っちゃうんですけど、なんであんな何事もなかったかのように3Lz飛べちゃうんです?すごすぎて笑ってしまう本当に。

 このプログラムのChSqを見るたびに、幼かった羽生少年が、一歩一歩階段を登っていく姿を一緒に見させてもらえているような気がします。あこがれの人の曲を演技する今の羽生くんに、幼い頃の羽生少年がこちらの脳内で勝手に重なるんですよね。

 しかし何度見てもChSq ~3A+3T~ChSqの間違いじゃないのか?って思うような振り付けですよね……。

 やっぱりoriginはいい!今年こそNHK杯のSEIMEI、ワールドのホプレガのような、快心の演技を見られたらいいなあ。

 

スピンのレベル特徴自分用メモ(間違ってたら教えて下さい)

FCCoSp4 CU CS (足変え) SS UF

FCSSp4 デスドロップ SF (足変え) SB 8回転

CCoSp4 トゥアラビアン チェンジエッジ (足変え) 足変え時ジャンプ NBP

 

 今回、重大なエラーが出た場合はPCSでSS,TR,COで9.25、PE,INで8.75以上はつけないという新ルールのためにPCSが伸びず。ええやん!ステップアウトしてたけど、速攻曲に戻ったじゃん!とファン的には思いますが、まあ結構なステップアウトだったし仕方なかったかなあというのが個人的な見解です。今回出せるギリギリのSS,TR,COに9.25、PE,INに8.75をつけているJ7、気持ちはわかるよ。

 

その他の技術的解説で面白かった記事を自分用に貼ります。

https://www.sponichi.co.jp/sports/news/2019/09/16/kiji/20190915s00079000695000c.html

岡崎さん記事。ステップアウトに対する解析。岡崎さんはワールドでも、踵に重心が行ってることを指摘してましたね。

 

https://number.bunshun.jp/articles/amp/840783

野口さんの総合的な分析記事。

羽生さんは「4回転ループと4回転サルコウはかなり耐えたので、その分の疲れがあって、後半はスピードがなかったと思います」と言っていたけど、後半の回転不足はその影響では、というのにはなるほどなあと。

 

スポニチはにゅさん記事。書き起こしありがたい。

https://www.sponichi.co.jp/sports/news/2019/09/19/kiji/20190918s00079000485000c.html

https://www.sponichi.co.jp/sports/news/2019/09/20/kiji/20190920s00079000157000c.html

 

ロンバルディアトロフィー

オータムを追っていたせいであまりちゃんと見られてないので、一部だけの感想を。

・アンナ シェルバコワ SP` The Perfume 67.73

2A 3F FCSp4 3Lz+3Lo LSp4 StSq3 CCoSp4

 ひえーーーーこれはすごい……今季好きプロベスト10には入るかもしれない……。

 細かいステップで音を的確に掴んできます。スパイラル~ブラケット~RBI~ホップ?~LBI~足変えスリータノ3F足上げの流れー!暗く深い冬の中、消えそうでいつまでも残っている雪の結晶みたいな、儚さと強さを兼ね備えたスケーターだなあと。

 

樋口新葉 SP Bird Set Free  52.33

2A FCSp4 2Lz CCoSp4 3Lo+COMBO LSp4 StSq4

 ジャンプの不調に苦しみながらも、スピンとステップでレベル4を揃えてくるのはすごいですよね。

 樋口さんはこういうアップテンポな曲を滑らせたら日本女子の中ではトップクラスだと思います。スピードがあってパワフルで、曲の早いビートに合わせてステップを刻んでくるので見ていてすごく気持ちいい。ステップシークエンスの、ツイズル~ループ(かな?)~髪を振り乱しながらトゥステップ、ああいう振り付けをできちゃうのっていいよなあと思うのです。

 ちょっと話外れるんですけど、アイスショーシーズンにやっていた、Dream girlsのAnd I am telling I’m not...がすごかったんですよ。あの曲を踊りこなせる人、日本ではわかばちゃんくらいだと思うので、これからももっと見ていたいです。

 

2018/19 個人的好きなプログラム10選

2018/19シーズン、個人的に好きなプログラム10選覚書。新米ペーペー何もわかってないスケートファンが書いた文章としてゆるい感じで見守ってください。

なお、自分縛りとして、1選手1プログラムのみのエントリー、ということにしています。

 

1.アレクサンドラ・トゥルソワ FS

 冒頭の審査員席に殴りかかる衝撃マイムからの4Lz!フィギュアスケートを見始めたばかりの身には大変な衝撃でした。

 この不穏な音楽と、衝撃のクワドジャンパーという来歴とがぴったりとマッチしているのも好きな所です。ジャンプの前の助走タイムはあまり好きではないのですが、トゥルソワさんのこのプロでの4Lzは「来るぞ……来るぞ……」という感じで見ていて楽しいですね。あと4T3Tからの2Aの異常な間隔とかも見どころ。

 編曲とかは良いんです。この曲がトゥルソワさんに合っているということが重要なんです。

 

2.チャ・ジュンファン SP シンデレラ

 スケオタ界を席巻した衝撃のジュリエットも良かったのですけど、個人的にはこちらのSPを推したいです。指先まで美しい姿勢、優雅でノーブルな雰囲気。スピンの解き方に至るまで、滑っている姿勢が常に美しいのは、幼少期からの芸能活動が生かされているからでしょうか。特に時計の振り付けが良いなあと思っていたらまさかの御本人振り付け。先が楽しみな17歳です。

 

3.ケヴィン・エイモズ FS In the shirt

  フランス男子は、胸元ざっくりさせないと駄目なんですか?って思うくらい、誰もかれもが衣装の胸元をざっくりさせていますが、その筆頭といえるのがこのケヴィンくんです。

 シーズンを通してミスがちょくちょくあったプログラムではありますが、彼の創造性が存分に生かされたプログラムでもあったかと思います。ジャンプ直前までみっちりステップを詰め込み、独特なコレオ(あのズサーとかね)、スピンの姿勢に至るまで手が行き届いてますね。一つ一つのステップのエッジが深くて美しいのもいい。余韻を打ち消さないように、演技が終わったあともフィニッシュポーズを保ってくれるのも好印象です。

 

4. 宇野昌磨 エキシビション Time after time

 宇野くんは今季エキシビションプログラムを複数用意していましたが、個人的には圧倒的Time after time派です。氷の上をなめらかに溶かして滑るような彼のスケートと、デイヴィッド・ウィルソンの振り付けがとても合います。甘いバニラアイスクリームの上に、ほろ苦いブランデーをかけたような大人の味です。

 彼のキャメルスピンが好きなんです。体幹に影響するような大きな動きをしても、体が全然ぐらつかないので、キャメルスピンの前の難入りがすごく綺麗ですよね。変わった入りから、まるでそこに行くことが初めから決まってるみたいに、真っ直ぐにぴたりとキャメルのポジションに向かっていくのが見ていて心地いいです。

 

5.ネイサン・チェン FS Land of all

 実は全米選手権を見るまで、SPのキャラバン派だったのですが、全米を見てこちらに乗り換えました。こんな高難度プログラムを普通にこなしちゃうなんて、しかもイェール大学に通いながらなんて、どうなってるの!?って感じでしたね。シーズン前に大学とスケートの両立を心配されてたのが嘘みたいな演技です。冒頭の4Lz、あんな何事もなかったかのように、流れを維持したまま飛べるのやばい。マジカッコイイ。

 あまりステップを詰め込んだプログラムでは無いのですが、ネイサンは一つ一つの所作がとにかく美しいので、個人的には無理に詰め込まず、このくらいで一つ一つの動きをしっかり見せてくれると良いなあと思います。

 

6.宮原知子 SP 小雀に捧げる歌

 初期のあのグレーのドレープ衣装がすごく素敵でしたね。後半の白い衣装も好きですが。

 一つ一つ、美しいポージングが切れ目なく続き、どこを切り取っても絵になっていて、うっとりとさせられるプログラム。短く弾む音に合わせて、2A前後でホップやスプリットジャンプ、ウォーレイを並べているのが、すごくおしゃれで良いです。

 ワールドで、生でこのプログラムを見たのですが、見ているだけでなんだか泣けてきてしまって。人は美しいものを見たときに涙を流すものなのだなあと改めて思いました。

 

7.坂本花織 FS ピアノ・レッスン

 色々なスケオタさんが今季ベスト10を選んでましたが、1番よく選ばれていたのはこのプログラムでは?昨シーズンのアメリが彼女にピッタリとはまったプログラムで、来シーズンははたしてこれ以上のものがくるのかと思いきやや、思いっきりK点を超えてきましたね。ブノワ・リショーの独特な手の動きと、彼女の飛ぶように滑るスケートが一体となって、圧倒的なパワーを感じました。スパイラル→スパイラルからのダブルスリー3Loはもう反則でしょう。

 

8.パパダキス/シゼロン組 FD Duet, Sunday afternoon

 アイスダンスのことはよくわからないですが、これがすごいということはわかります。重力がかかっていないカーブリフト、異常なまでの推進力を持つワンフットステップ。もうなんだかよくわからない。何が起きてるんだ氷の上で。

 

9織田信成 FS YMCA

 反則では?と思いつつ、こんなに完成度高いプログラムなかなか見れないでしょ、と思ってしまったのでベスト10に入れました。スケオタ一年生が何を言ってるんだという話ですけど。

余裕を持って回り、そして余裕を持って降りてくるジャンプに、ステップもスピンも極上。そんな高い技術力で、スピンしながらYMCAポーズを取ってくるとか、もうズルいとしか言いようがない。観客とコネクトする力は現プロスケーターの中でも随一なのではないでしょうか。

 

10羽生結弦 エキシビション 春よ、来い

 otonalもoriginも本当に最高だったのですが、個人的には春よ、来いを推したいです。私たち羽生ファンはアイスショーでたっぷりと見られたこのプログラムですが、国際試合のエキシビションで披露されたのはたったの2回!人類の損失ですよ。

 深く刻まれるステップの美しさ、ナルシスのように氷を覗き込むハイドロブレーディング 、音楽とシンクロして世界を塗り替えるスピン。私に漢詩の才能があったらこのプログラムを題材に詩集を作っていたところでした。

 

というわけで10本選んでみました。ここには入らなかったけれど、高橋さんのペイルグリーンゴーストとか、ヴィンスの脱出交響曲、ウンスのロキシーとか、紀平さんのbeautiful stormとかも好きです。来シーズンはどんなプロが見られるか、楽しみに待ちたいと思います。

初めての世界選手権観戦記(3/20 3/22)

 世界選手権終わりましたね!

 いやー、ネイサン強かった。全米の時の演技を出されたら、こりゃ勝てないかもなあと思ってたけど、ワールドでもあの演技ができるとは。めちゃくちゃかっこよかったですよね。全てのジャンプのクオリティが高い。4Lzをあのスムーズさで飛べるとはなあ。

 あとそもそも彼に、Land of allって曲がめっちゃ合いますよね。映画もちょっと見たくなりました。

 我らが羽生さんも素晴らしかったです。otonalも美しかったし、originの鬼気迫る演技も迫力がありました。上から見たイナバウアーの美しさ。ハイドロで、いつもつかないところで軽く氷に手をついているのを見てしまった時は、ああ、羽生さんは今限界の中で戦ってるんだなあとわかって胸が苦しくなりました。

 他にも今季苦しめられた回転不足判定を乗り越えたヴィンスの演技や、エイモズくんの独特の世界観、リッツォくんの躍進などなど、印象的なシーンは多々ありましたね。

 

 そんな世界選手権、日本で行われるのは2014年以来5年ぶり。つまり、これを逃したら次がいつになるかわからないわけです。是非、毎日試合を見たいぞ!とチケット戦争に参戦してみたのですが、男子の日は流石に激戦で取ることができず……。

 そんなわけで、3/20、3/22と男子シングルの試合がない日に行ってきました。22日は仕事がどうしても抜けられなくて、女子シングルの途中から参戦しました。

 

 実は試合を生で観戦するのは今回がほぼ初めてでした。「ほぼ」というのは、一応Japan Openに行ったことがあるんですよ。でも、あれは余興試合みたいなところがあるので、試合観戦にカウントして良いものかちょっと悩みます。とても楽しかったですけどね。織田くんのYMCAスピン本当に最高でしたしね。

 一方で世界選手権。流石に迫力、熱気がすごい!世界一を決める大会だから当然のことなのかもしれませんが。ちなみに私の席は400レベル。天井席と呼ばれるところでしたが、リンク全体がよく見えて良かったです。

 

 実際に見て印象に残った演技は以下の通りです。

スイハンSP

 第3グループだったのですが、ペアに詳しくない人間から見ても、格が全く違うのがわかりました。猛スピードから速度を落とすことなく、滑らかに実行されるエレメンツ!いやあすごかった。すごいものを見た。

 

デールマンSP

 上から見ているとジャンプの飛距離がよくわかるのですが、デールマンの3T3Tは、いかに3Tが比較的飛びやすいジャンプとはいえ意味がわからないレベルの飛距離でした。リンクのショートサイドをひとっ飛び!いやはやすごいものを見た。

 

メドベージェワSP・FS

 今回の世界選手権観戦の目的の一つが、メドベージェワ選手の演技を見ることでした。平昌五輪での「アンナ・カレーニナ」を見て感動し、軽い気持ちで行ったFaoiで彼女の「experience」に心を鷲掴みにされてしまいました。そういうこともあり、今季はドキドキハラハラしながら見守っていました。

 ロシアカップファイナルで、ようやく掴み取った勝利とワールドへの道。正直、メドベージェワ寄りの人間からしても、今季の成績を考えればリーザが行くべきだったのかも……とは思います。でも、やはり私としては、あのタイミングで仕上げてきた彼女の闘志におめでとうと言いたいのです。

 今回も彼女は素晴らしかったです。めちゃくちゃ緊張して楽しむどころじゃなかったんですけど、ジャンプが決まるたびに「うおおおお!!!!」と心が震えました。これが生観戦の迫力なんですね。

 

宮原FS

 私は宮原さんのプログラム、SPのほうが好きなんですが、今回はFSが良かったですね。氷の上ですうっとブレードが滑っていく様がとてもなめらかで美しく、これは生観戦じゃないとわからないなあと思いました。

 

坂本FS

 坂本さんもデールマンさんと同様すごいジャンプの持ち主。スケーティングもまるで空を飛んでいくようで、ぐいぐい滑るのが天井からだとよくわかります。2Aがとても大きくて、坂本花織限定で2Aの基礎点を上げてほしいと思うレベル。

 

トゥルシンバエワ FS

 衝撃の4S!素晴らしかったですね!!!しかし4Sだけではなく、流石エテリ勢というべきか、どのエレメンツも隙がなくて美しく、演技全体の完成度が高かったです。来季も楽しみですね。

 

ザギトワ SPFS

 今季いろいろあったので、滑る前は大丈夫かな……?と勝手に心配していたのですが、3Lz3Loをバッチリ決めてきたところで「あ、こりゃ大丈夫だ」と感じまして、あとはただただ純粋に演技を楽しみました。

 SPのオペラ座の怪人、編曲があまりにもあまりにも過ぎて、これどうなの?と思っていた時期もあったのですが、気がつくと求めている自分がいますね……。バリーン!と鏡を割るシーンでキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!ってなってます。

 

 あと、Dasa GRMさんのFSが結構印象的でした。冒頭でセリフが流れ始めたとき「おいおいエテリ組の方ですか?」なんて思ったんですけど、作品としてすごく見ていて面白かったなあと。気持ちが伝わってくる演技って良いですよね。

 あとは紀平さんのbeautiful stormとか、ウンスさんのロキシー・ハートとかお気に入りプロが生で見られてよかったです!

 

 演技以外で気になったことといえば、6分間練習です。初めてみたのですが、なかなか興味深かったです。

 みんなプログラムで飛ぶところと同じところでジャンプ練習してるんですね、知らなかった。あと、後ろのグループになればなるほど全員のスケートのスピードが上がっていくんですね。第一グループ第二グループでの6分間練習はまったりしているときも多いですが、最終グループは全員がびゅんびゅん滑る!時々ニアミスもあってひやっとしました。あれ、たまに事故があるのも納得です……。

 

 初日はオープニングセレモニーがあったのですが、すごく良かったです!氷艶コラボなんですね。日本の独自色が出てて面白かったです。ミラノのワールドオープニングセレモニーも、ダヴィンチを前面に押し出してましたっけ。各国が個性を出してくるって良いですよね。

 源氏物語をテーマにしていた「月明かりのごとく」、メンバーの豪華さもさることながら、衣装に力が入ってて、めちゃくちゃ氷艶が楽しみになりました。一度、着物風衣装ではなく、ちゃんとした着物衣装で滑っているところ見てみたかったんですよー!*1 鈴木明子さんの滑りがかっこよくて素敵でした。

 

 色々感想を書きましたが、今回の世界選手権に行ってみて一番感動したのは、どの国の選手にも、客席で国旗が振られていることでした。スケートファンの方達が観戦に何枚も国旗を持ってくるのは知ってましたけど、実際に見ると感動しますね。結構マイナーな国でも誰かが国旗を持ってきていて、その選手の演技前と後に振ってあげている光景はなんだかじんと来ました。

 遠い国から日本に来て、満員のお客さんの中、たった一人でリンクに立ったときに、客席に自分の国の国旗が振られているのが見えるのって、一体どんな気持ちになるんでしょう。

 わたし、あまり国旗に思い入れがなくて、羽生くんが国旗を大事にしているのを見てても、「羽生くんは大事にする人なんだなー今どきの若者にしては珍しいなあー」程度に思ってたんです。でも、あの光景を見ると、羽生くんが国旗を大事にしている気持ちがなんだかわかる気がします。

 

 あと、ちょっとびっくりしたのが、とにかく長丁場!そして休み時間がない!(特に初日)

 初日は朝10:30からペアSPが始まって、オープニングセレモニーがあって、女子SPが夜21時まで続くとは……。私勝手に1〜2時間位はどこかで休憩挟むもんだと思ってたんです。確かに休憩はあるんですけど、長くて20分程度なんですよ。衝撃でした。

 まあワールドだから、という側面もあるんでしょうけど(GPSはもっと参加者少ないし)。このスケジュールを見るに、ネットで物議を醸していた某百貨店のチケットの売り方をあんまり責められないなあと……。だってご年配の方は11時間観戦は流石に無理でしょ。はじめからカップル競技を見に行けない、あの売り方はいかがなものかとは思いますけど。もう少しなんとかならないもんですかね……。

 あと、長時間見てると目がすごく疲れるのも初めて知りました。目薬必要ですね。次の機会は持っていきます。

 

 今回の運営に関しては、ツイッター上でいろいろ話題にもなっていましたが、自分が感じたのは会場にスタッフが少ないなあということ。たまアリでライブに行ったこと何回かありますけど、その半分もいないんじゃないか?と。それでいて超長丁場なわけで、回らないのもある意味必然なのかなーとは思いました。

 

 ところで、日本スケート連盟って「公益財団法人」なんですよね。

https://www.koeki-info.go.jp/pictis_portal/other/pdf/20161116_NewPanflet.pdf

 内閣府の公益財団法人のパンフレットを見たのですが、公益財団法人に求められることとして、「公益性」ということがあるそうです。その公益性というのは、

 ・公益目的事業を行うことを主としていること
 ・特定の者に特別の利益を与える行為を行わないこと
 ・収支相償であると見込まれること(※あまり儲けすぎてはだめということですね)
 ・一定以上に財産をためこんでいないこと

 などがあたるそうです。こういう団体であることを考えると、利益を追求できる一般企業ほど自由度があるわけじゃないのかなあとは思います。財産を溜め込めなかったり、利益をあげられないとなると、運営を改善しようと思っても現資金がなくてできなかったり、専門の熟練スタッフを何人も雇ってノウハウを蓄積したり……なんてこともできなさそうですし。

 あとよくフィギュアで儲けたお金をスピードスケートに使ってると批判されるときもありますけど、公益目的事業は「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」なので、フィギュアで儲けたお金だからフィギュアに多く使う~って団体ではそもそもないってことなんですかね?

 個人的に、スケ連を見ていて思い出すのは「学会」ですね。学会も公益財団法人だったりしますし。学会を運営している人たちは別にそれが仕事ではなくて、他の業務を行いながら学会を運営しているんですよね。企業と違って明確な指揮系統のもとで動く組織でもないし、明確なビジョンがあるわけでもないですし…。

 だから、学会って企業が運営しているイベントよりもかなり緩かったりします。スケ連に感じるゆるさもそういうことなのかなとは思います。

 まあ、そのゆるい団体がさいたまスーパーアリーナで連日満員のイベントやるっていうのが、いろいろと不幸のもとなんだろうなあとは思いますね……。

 

 最後は愚痴みたいになっちゃいましたけど、世界選手権楽しかったです!また日本に来たら、今度は休み頑張ってとって全試合みたいなあ~体力持つかな……???

 

 

*1:羽生さんに烏帽子かぶって滑ってほしいなあ

羽生くんにぴょん落ちした話

  忘れもしない2月17日。

 普段どおりツイッターをして、何の気なしにトレンドをみた。そこにあったのは、藤井と羽生の二つの名前。どうやら将棋の羽生さんに藤井四段(当時)が打ち勝ち、羽生結弦くんがフィギュアスケート男子で二連覇を成し遂げたらしかった。

 へー、羽生くん勝ったのか、すごいなー。程度の感想を抱いた私は、軽い気持ちでNHKツイッターに上げていた動画を再生した。ネットで大騒ぎされている羽生選手がちょっと気になるな、程度の気持ちだった。見たのはあの復活のSP、バラードNo.1だった。あまりの美しさに驚いて、FSも見た。こちらも素晴らしかった。気がついたら、バラードNo.1を繰り返し、繰り返し見ていた。

 音楽に合わせて踊るのではなく、音楽をそのままスケートの形に起こしたような動き、山場でぴったりと誂えられたかのように飛ぶジャンプ、音楽の転換部で華麗に回るスピン。くるくると回るターン(後でツイズルというと知った)の一つ一つでさえも音の展開に沿っている。手足が長くて、振り付けが美しく優雅に見える。こんな美しかったのかフィギュアスケートって。衝撃以外の何物でもなかった。

 

 恐る恐るツイッターを検索した。フィギュアスケートには過激なファンがいるのはソチやバンクーバーでなんとなく知っていたから、その人達がまだいるんじゃないかと思って怖かったのだ。予想以上にひどい人たちがいたけれど、一方で競技に対する深い知識を持って語っている人たちもたくさんいた。

  そういう人たちのツイッターを見ながら、いろいろな人の競技の映像を見た。女子シングルのSPとFSもすごく面白かったし、エキシビジョンも最高に楽しかった。羽生くんの過去の演技をまとめてくれた人がいたので、彼の過去の映像にも手を出した。2016年のボストンエキシビジョンがとても美しくて、そしてとても悲しくて、フィギュアを見て初めて泣いてしまった。

 気がついたら毎日のように羽生選手や他の選手の映像を見ていて、私はすっかりハマってしまったことに気がついたのだった……。

 

 そんなわけで羽生くんにぴょん落ち*1してすでに半年近く経ってしまったのだけども、いやあ時が経つの、早いね!!!

 スケートファンにとっての新年は7月1日らしいということを知ったのも、平昌五輪以降のこと。フィギュアスケートの新シーズンが始まるのが7月1日だからなのだとか。というわけで、新年から結構経っちゃいましたけど、ハマったばかりの今の気持ちを書き残しておこうと思う。

 

 羽生くんにはまって一番驚いたのは、フィギュアスケートの競技的な面白さ。フィギュアはシンクロや体操競技と似ていて、ルールを知らなくても見ているだけで十分楽しい。でも、羽生くんがどうしてこんなに美しいのかを知りたかったし、何が勝敗を決めたのかがすごく気になった。得点が出るってことはルールが有るってことだし。そこで、少しずつ技術的なことや採点ルールを調べ始めた。

 実はソチやバンクーバーのときも少しフィギュアに興味を持ったのだけど、あの頃はネットやツイッターを軽く検索すると、特定の選手への誹謗中傷を言う人ばかりにぶつかった。ちらっとそれを見ただけでげんなりしてしまい、当時はそこで諦めてしまった。

 しかし、前回の五輪の時と違って運がいいことに、今回の五輪では、技術をわかりやすく解説してくれる(そしてどの選手の悪口も言わない)人たちのツイッターアカウントやHPにたどり着くことができた。

 特定の選手に過剰に肩入れし、他の選手を批判する人はあまり見ないように心がけた。バイアスがかかっている可能性が高いし、私みたいな初心者にはどこにバイアスがかかっているのかわからないからだ。バイアスがかかるのが悪いってわけじゃない。人間誰しもバイアスがかかっているものだし。ただ、はじめに接する情報はなるべくフラットな方が良いと思ったので。

 いろんな選手を見ていていろんな選手の良さについて語れたり、フィギュアスケート経験者だったり、技術委員だったり詳しい人のツイートやブログを読み、技術解説本を読んだり、ISUの採点ルールを見ながらいろいろ技術的なことを少しずつ勉強した。

 フィギュアは”円を描く”スポーツだということ。ジャンプだけじゃなくて、ステップ(片足だけで方向転換したり、両足で足の組み替えなどの動き)やスピンも重要だということ。ジャンプは遠心力を利用し、角運動量保存を利用して跳び上がる時はゆっくりと、空中で高速回転し、できるだけスピードを殺さず着氷すること…などなど。ジャンプに関しては慣性モーメントや角運動量保存則など、科学的な話も出てきて色々面白かった。ISUの副会長は数学者で、採点システムには彼の知見も生かされてるというのも羽生くんのファンになってから初めて知った。

 

 特に印象に残ったのは、フィギュアの採点ルールは意外と明確に定められていること、そしてそのルールのなかで選手たちは様々な戦略を練っているということだった。

 まだまだ芸術点では及ばないから、基礎点の高いジャンプを沢山後半に飛んで得点を狙う若手。四回転ジャンプを若手みたいに沢山飛べなくても、スケーティングスキルの高さで芸術点を狙ったり、事前に難しいステップを踏んでジャンプの質を上げることで得点を取るベテランもいる。

 体力を考慮してジャンプを前半に飛ぶか後半に飛ぶか、基礎点は高いが成功率の低いジャンプで逆転を狙うか、基礎点は低くても成功率が高いジャンプにするか、その選手の特性やその時のコンディションでいろいろな戦略があって、人それぞれやり方はちがうけれどどれも否定されるものではないところが、すごく面白いなと思った。

 高得点が狙えるコンビネーションジャンプに失敗しても、次のジャンプでコンビネーションをつけたり、ステップでレベルを取りそびれそうになって、とっさに振り付けを変更したり。GOEが加算されないとなったら振り付けをシーズン途中でもどんどん変えていったり。

 美の下にはめまぐるしい戦略が隠されていて、知識をつければつけるほどそれが見えるようになっていく。とりあえず難しいジャンプをちゃんと飛べば良いのかな?程度の知識しかなかった私にとっては、すごく新鮮だった。

  

 

 実際にファンになってみて驚いたことはもう一つある。それは羽生くんの注目され具合だ。

 平昌五輪の映像を見ると、ずっと羽生くんのそばにいて彼の映像を撮っているカメラクルーがいる。日本メディアのインタビューではどの選手にも羽生結弦をどう思いますか?何かエピソードはありますか?なんて、彼関連の質問がある。フィギュアスケートを取り上げた番組ではいかに羽生結弦がすごいか?と必ず言及するし、試しに買ってみた雑誌の表紙も羽生くん、内容も半分以上羽生くんだった。日本の選手層、かなり厚いのに。

 正直なところ、沢山羽生くんが見られて嬉しい気持ちもあった。でもその一方で、羽生くん、しんどそうだなとも思った。

 ひとたびリンクに行けば常に付いて回るカメラクルー。取材は常に記事にされる、時には自分の本意ではない変な書かれ方をしたりもする。

 自分の周りの人たちにも、メディアは不躾に自分のことばかり聞く。羽生くんの同門であるハビエル・フェルナンデス選手は、みんな僕にユヅのことばかり聞いてくるんだ、と冗談にしていた。私が羽生くんだったら迷惑かけて申し訳ないって思ってしまうかもしれない。

  ただ、羽生くんのすごいところは、その環境を甘んじて受け入れて、逆に利用しようとしているところだと思う。

 インタビューも嫌な顔せず引き受けて、自分のメンタルコントロールに利用したり、注目度を利用して震災復興を訴えたり。あれだけ過剰に取り上げられたら嫌な顔してインタビューを断ったりしてもいい。イチローとか本田圭佑みたいに冷たくあしらっても全然構わないと思う。

 そこをしないのは、フィギュアスケートは野球やサッカーとは違うマイナースポーツで、取り上げてもらえるだけありがたいという側面もあるから、というのもあるし、今の人気でメディア対応を悪化させても、過剰な取材攻勢が止むとは思えないというのもあると思うけど、逆境を自分にとってのチャンスに変える、羽生結弦的メンタリティの結果というのも大きいんだろうなあと思った。

 外観は華奢でフェミニンな男子って感じだけど、中身はギラギラしている。面白い人だなあと思う。

 ただ、ここでつらいのは、こういった変なメディアに付け狙われてしまうのは、羽生くんが人気者だからで、なんで人気者かって私みたいなファンが沢山いるからだ。ファンとしてはとてもつらい。めちゃくちゃジレンマだ。もちろん、ファンがたくさんいるからできるようになったこともあるんだろうけど、PV目的の変な記事が量産されているのを見ると申し訳なくなる。

 

 もう一つ。羽生くんのファンになって羽生くんから受けていた印象は結構変わった。思ったより好青年で、二十代とは思えないほどしっかりしていた。特に印象的だったのはインタビューでの受け答えだ。

 インタビューアーが求めている回答を察して見事に答えたり、ときにピシャリと釘をさしたり、本当に二十代前半?人生何回目?って思わせてくることが多い。

 例えば、平昌五輪後の記者会見でのとある質問への回答がすごかった。日本記者クラブにあったレポートから引用すると、こういう質問だ。

質問者:私がお聞きしたいのは、心の問題です。メダルを取った方、取れなかった方も含め、今回、日本選手がインタビューで周りの方々への感謝をいままで以上に口にされています。その一方で、世界では「勝てばいいんだ」とか「周囲への気配りではなく自分の競技に集中することが大切だという流れもあります。トップアスリートが世界を極めるためには、感謝とか思いやりというのは、どれぐらい大事なことだと思っていらっしゃいますか。 https://www.jnpc.or.jp/archive/conferences/35057/report

 この質問に、羽生くんは、まず日本の練習でのメンタルを鍛えるところはすごいと相手の意見を受け入れつつ、欧米にもマイケル・ジョーダンみたいに周りの感謝を忘れない選手がいる、そもそも僕は負けん気が強い選手、そういうのは人によるもの、と相手の思想にやんわり反論し、最後は一般的な感謝の気持ちを持つことは大事だという話から、自分がどういうところに感謝の気持ちを感じるかという話をしてしめていた。

    相手の意見を一旦受け入れつつ、日本と海外という不毛な比較はちゃんと否定して、最後は自分の、感謝を大事にするエピソードという、相手がおそらく求めているであろう回答で終わらせるというファインプレー、いっそ凄まじいものがある。

 そういうところをはじめに見たので、羽生くんはなんでもできるんだなあ、すごいなあと素直に思っていたのだけど、ファンを続けていくうちに、少し違う印象も受けるようになった。もしかして、この人、めちゃくちゃ真面目で不器用な人なのでは…?と。

 自分の周りにも真面目な人がいる。真面目な人って大体不器用だ。だからこそ真面目なんだろうけど。

 「いやそこまでしなくてもいいよ」「休みなよ」と言われても全力を尽くすし(その結果、素晴らしい結果を残すけども、ときに体を盛大に壊したりしてしまう)、自分の中にある信念はなかなか曲げない。まあちょっとくらい曲げた方がうまくいくよな、周りに好印象持ってもらえるよな、って時でも曲げない。

 それは全力を尽くさなかったり信念を曲げなかったりもできる、けどやらないって言うよりも、「全力を尽くさないこと」ができないし、「信念を曲げること」ができないという方が正しい。器用な人は使い分けられるけど、不器用な人はそれ一本槍で戦ってしまう。インタビューなんかを見ていると、羽生くんもそうなんじゃないかな?って思う。これはわたしの勝手な推測だけど。

 もちろん、それ故に五輪二連覇という偉業を成し遂げられたというのもあるんだろうけど、いちファンとしては不器用だなあ、という気持ちが先立ってしまう。意外と熱血漢で、意外と不器用な男、それが羽生結弦だなあというのがこの半年弱応援してて受けた印象のまとめです。

 

 最後に、個人的な羽生くんの好きな演技を羅列して終わりにさせてもらいたい。(唐突!)

 ツイッターで羽生くん推しになるきっかけの演技を4つ選ぶというタグがあったけど、自分が選ぶならばこれ。

(1)バラードNo.1 2018平昌五輪SP

www.youtube.com 羽生くんのバラ1はどれもいいけれど、やっぱりハマったきっかけの平昌五輪版が好き。山型の音型の起点で飛び、最高音でジャンプも最高位置につき、下降音型と供に降りてくる、あの鬼のようにメロディに合わせに行くジャンプが好きだ。

 羽生くんは曲とタイミングが合わない日はジャンプが上手く決まらないといっていたけど、あんな細い穴に糸を通すようなレベルでジャンプを曲に合わせているんだったら、そりゃ決まらない日は決まらないだろうなあと思わせてくるプログラム。ステップシークエンスの有り余る情熱性も好き。温度は高くないように見えて実は何よりも熱く燃え盛る青い炎のようなプログラムだと思う。

 

(2)天と地のレクイエム 2016世界選手権エキシビジョン

www.youtube.com 本人も言っていたけどあまり調子が良くなかった2016年のワールド(といっても銀メダルなのだからおそろしい)でのエキシビジョン。深い悲しみとその中にある希望を表したプログラム。ステップからホップジャンプ、スピンの解き方に至るまで、プログラムが一つの表現として結晶したかのような美しさ。羽生くんが着ている衣装はサンゴをイメージしたもので、この衣装を着て演じる彼は、海の底で眠る魂たちを一つ一つ空の彼方へと連れて行くようにも見える。

 

(3)notte stellata 2018平昌五輪 エキシビジョン

www.youtube.com ぴょん落ちした人間なので平昌五輪の映像が多くなることを許してほしい。

 羽生くんが 両腕を広げて滑ったら それはもう白鳥なんです。

 男性なのに、プリマが演じる白鳥のような衣装がピッタリと合うのがこのnotte stellata。タラソワコーチがぜひユヅルに、と持ってきてくれたことに、羽生くんのジェンダーレスなところは国際的なものなんだなあと思う。ロシア語実況解説で、私がユヅルにこれをあげたのよとドヤるタラソワ先生好きだなあ。

 一つ一つの手の動き、一つ一つのステップが鳥が羽ばたいているかのよう。雄大なディレイドアクセルが白鳥が湖面をふわりと飛ぶようで、スピンがまるで羽ばたいているかのようで、これもすごく好きなプログラム。

 

(4)Let's go crazy 2016GPF SP

www.youtube.com  あとやっぱりこれですね。髪型が爆イケだからというわけではなく(それも多分にあるけど)、このアップテンポなポップスにもばっちりリズムを合わせてくる羽生くんの音のとり方がたまらなく好きです。キャメルスピンがまるでミラーボールみたい!

 あと皆さんも同じこと仰ってますけど、このプロでの3Aは本当に最高。難しい入りからの軸が細くてまるで錐みたいなトリプルアクセル、そこから間髪入れずにハイキック!しびれざるを得ないですよこんなの!

 

 

 羽生くんの演技に関する記事を見たり、実況を聞いていてよく出てくるのは「effortless」という単語。無駄な力の入っていない、と言う通り、羽生くんはジャンプにしてもスピンにしても無駄がなくて、まるで物理エンジンで理想的なジャンプをシミュレーションさせた通りのようなジャンプだよなあと思う。難しいステップを踏んでいるときも、何事もなくふわふわすいすいと滑っているように見えて、氷から1mm足が浮いてるんじゃないの?と疑うレベル。

 そこのeffortlessさから、羽生くんの人間離れした美しさを感じる。羽生くんの演技からは人間の色気とか情動とかそういうものよりも、もっとなにか人ではないもの、神様や自然というものに近いものを受ける。演技を見るとやっぱり一人の青年なんだけど。だから、人間と人間ではないものの間と言うべきかも。

 「天と地のレクイエム」やFaoiでやった「春よ、来い」のような演技、あとは2017年世界選手権での「Hope & Legacy」もそうだと思う。人と人ではないものの狭間をたゆたうような演技。

 そういう意味では羽生くんのハマり役はやっぱり「SEIMEI」なんだろうな。人間と狐との間に生まれたとされる、安倍晴明というキャラクターが彼にはよく似合う。

 演技の参考にしたのが、狂言師である野村萬斎さんというのにも運命を感じる。野村萬斎さんが、シン・ゴジラゴジラのモーションを担当したとき、狂言は「この世ならざるもの」を演じてきたというふうに話していたと思うんだけど、そこが羽生くんのふわりと浮いたような感じに合ったのかもしれない。

 

 長々と書いたけども、羽生くんにハマっていろんなフィギュアの競技や選手を知ることができたし、実際にアイスショーに足を運んだり、色々と楽しいことが増えて毎日の輝きがさらに増している。新シーズンも楽しみ!

*1:平昌五輪でフィギュアにハマること。狭義には平昌五輪で羽生結弦にハマることを指す

平昌五輪男子シングルフリーでのジャッジの逸脱度について

 こんにちは。最近こんなニュースが話題になりましたね。

https://www.isu.org/communications/17362-isu-communication-2174/file

 平昌オリンピックでの中国ジャッジがジャッジの規定違反で二年のジャッジ停止、北京五輪での審査から閉め出されるなど、厳しい処分を受けたようです。

 調査詳細も出てました。

https://isu.org/communications/17361-case-2018-06-isu-vs-chen/file

 リンク名、ISU VS CHENってw(CHENは今回のジャッジの名字)

 

 平昌後、男子シングルFSジャッジのナショナルバイアスがひどいって話題になっていたなあとは思いましたが、実際に処分が下るとびっくりしちゃいますね。

www.buzzfeed.com アメリカのbuzzfeedでの批判記事。この記事で槍玉に挙げられているのは、中国ジャッジとアメリカジャッジです。中国ジャッジはボーヤンにSPで平均より10.7点高い点数、FSで25.0高い点数をつけ、アメリカジャッジはFSでリッポンとネイサンにそれぞれ11.6点、11.5点高い点をつけたとのこと。

 

 では、今回の件、一体どういう基準で処罰がくだされたのでしょうか?

 ジャッジの規定はISUコミュニケーション1631号に書いてあるみたいです。スケ連のページに邦訳がありました。とてもありがたい。

https://www.jsfresults.com/data/fs/pdfs/comm/comm1631j_p2e.pdf

 

 ただこれ、最新のものはISU1893号みたいですね。

https://www.isu.org/communications/312-isu-communication-1893-2/file

 冒頭に「This Communication replaces ISU Communication No. 1631 with immediate effect」とあるんで、多分こっちのほうが新しいと思うんですけど、邦訳がない…。

 とにもかくにもこちらの資料の、H)Criteria for the identification of cases of evaluation in the Judges’ GOEs and Program Components marksというところによれば、ジャッジがつけた得点から「逸脱度」というポイントを計算し、それが有る一定以上の数値になると、異常な審査結果としてチェックが入るようです。

 

 なんだそれ、面白そうじゃん、ということで、平昌五輪のフリー採点においての、ジャッジの逸脱度を計算してみました。

 資料に書いてあるとおり、逸脱度には2つあって、一つはGOEの逸脱度、そしてもう一つは5コンポーネンツの逸脱度です。どちらも審判がつけた点数が、全体の平均からどれだけ離れているかを見るものなんですが、その「平均」が曲者なんです。ジャッジがつけた点数だけではなく、レフェリーがつけたものも入れるみたいなんですよね…。うーん、ジャッジの点数しか公表されていないので、計算できないなあ。諦めるか!

…というわけにもいかないので、今回はジャッジの点数の平均だけから計算しようと思います。なので正確な値にはならないです!あしからずご了承ください。

 

(1)GOEの逸脱度

 GOEの逸脱度は、以下のように計算されます。ISUコミュニケーションズ1631と1893で大きな変更がないようなので、1631の邦訳から引用しますね。

a) 要素部分の採点(GOE)
i)  演技された各要素、セクションごとに、コンピューターがGOEの平均点を計算するが、その中にはパネルの全ジャッジの採点とレフェリーの採点とが組み込まれる。パネルが7人以上のジャッジで構成されている場合には、レフェリーの意見に大きなウエイトを置くために、レフェリーの採点を2倍とする。
OACの評価の為に集計される平均点は、競技結果(演技の順位決定の範囲で)としてこれまで使われていた刈り込み平均の結果とは同じではないという点に注意されたし。


ii) 各ジャッジの採点に対して、コンピューター・プログラムは当該要素の平均点との逸脱を計算する。
一つの要素でのジャッジの採点における逸脱は、ジャッジにより入力されたGOEと当該要素のGOEの平均点との差の絶対値(すなわち正の値)であり、ここでは「逸脱度」と呼ばれる。全要素における逸脱度は、2つの個別の合計に分けられる。すなわちプラス部分の逸脱度とマイナス部分の逸脱度である。

 ジャッジがつけたGOEと、GOEの平均値の差をそれぞれのエレメントで算出し、その絶対値を足し合わせる、という方法です。

 例えば平昌五輪FSでの羽生さんの演技におけるJ4ジャッジ(日本ジャッジ)の場合、1つ目のエレメント4SでGOEは+3をつけています。全ジャッジが4SにつけたGOEの平均値(実際にISUが計算に使っている平均値はこれにレフェリーの点数が入ってきます)が2.89なので、逸脱度は0.11となります。

 これをそれぞれのエレメントで算出し、足し合わせて総逸脱度を計算します。

 ちなみに私の計算によれば、J4ジャッジの羽生選手FSでのGOE逸脱度は、プラスの逸脱度が4.33、マイナスが-0.33、総逸脱度は4.67です(小数点以下も計算に入れてるのでこうなります)。

 

 逸脱度が異常とされる基準は、ISUコミュニケーションズ1631号によると以下のとおりです。

各ジャッジに対して、許容される総逸脱度のコリドーが計算される。この「コリドー」は、演技された要素の数が基礎になる。例えばショート・プログラムでは7つの必須要素が演じられる。各ジャッジの採点は、平均として各要素につき逸脱度1のずれがありうる。従って、ショート・プログラムでは7つの要素があり、(許容される)総逸脱度の最大は7.0となる。プラスとマイナスの逸脱度が加えられる。

 つまりエレメント1つにつき1点以上ずれたら、おかしいってチェックはいるよ!ってことですかね。

 男子FSだとエレメントが13個あるので、13より大きいと異常ということですね。J4ジャッジの羽生選手FSでのGOE逸脱度は4.67なので、異常とは判断されない、ということです。

 

 ちなみに逸脱度とは関係ないのですが、GOEにはこんな規定もあるんですね。

(i) For each element performed, the computer calculates the difference between the highest GOE and the lowest GOE of all Judges of the panel and the Referee.
The result is called “Range of GOEs ” for the respective element.
(ii) If the Range of GOEs of an element equals 3.0 points or more, the GOEs of the Judges for that element will constitute cases of evaluation.

  ジャッジとレフェリーがつけたGOEの中で、一番高いGOEと一番低いGOEの差が3以上のときは、それをつけたジャッジはチェック対象になるよ!ってことなのかな?

 

(2)プログラムコンポーネンツの逸脱度

 プログラムコンポーネンツの逸脱度は、以下のように計算されます。ISUコミュニケーションズ1631と1893であまり変更がないようなので(1893の方ではジャッジの異常を発見するOACメンバーの採点への言及がなくなっているだけ)、1631の邦訳から引用しますね。

各プログラム・コンポーネンツごとに、コンピューター・プログラムは、パネルの全ジャッジ、レフェリーそしてOACのメンバー(もしその現地にいれば)の採点を組み込んだ平均点を計算する。レフェリーの採点(個人の採点)とOACのメンバー(もし現地にいれば)の採点はいずれも1.5倍される。フィギュア・スケーティング・グランプリ・イベントの各戦(ジュニアとシニア)及び、ISUワールド・チーム・トロフィーにおいては、パネルが7人以上のジャッジで構成されている場合にはレフェリーの採点を2倍とする。6人以下の場合に時は1.5倍とする。
5つのプログラム・コンポーネンツのそれぞれについて、ジャッジのコリドーは、そのジャッジの採点と計算された平均点との間の1.50の逸脱度(コンポーネンツごとに最大10点の15%)に基づく。つまり、5つのプログラム・コンポーネンツでは(許容される)総逸脱度は7.5となる。プラスとマイナスの逸脱度は、差し引き相殺される。

 GOEの逸脱度の計算と違うのは、プラスとマイナスの逸脱度が相殺されることですね。これ、なんで違うんだろう?誰かわかる方がいれば教えてください。あと、GOEだとエレメント数×1の点数以上だと異常としてるんですが、プログラムコンポーネンツはコンポーネンツの数(5)×1.5で7.5点が閾値になってるみたいです。

 ちなみに、プログラムコンポーネンツにも最高点と最低点の差に規定があって、2.5点以上だとチェックが入るようです。つまり、みんなが8.5とか8とかつけてるときに、5.5ってつけたら目をつけられるってことですね。

 

 

 では、実際に計算した値がこのようになります。まずはGOEの逸脱度から。

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 J7が中国ジャッジなんですけど、こうやって見るとぶっちぎりですね。ちなみに13以上になっているのはここだけです。

 次はプログラムコンポーネンツの逸脱度です。

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 違反になるのは7.5以上ということですが、そこまで大きなばらつきはないですね。ただ、やっぱりJ7がボーヤンにつけた値が一番平均から逸脱しています。

 

 個人的に気になることとして、巷で言われ、記事でも指摘されていた「アメリカジャッジ(J2)はどうなんだ?」という件ですが、逸脱度を見るとばらつきは確かに大きいんですけど、違反とされるほどは大きくないですね。

 ただ、GOEの逸脱度って、平均からずれた値の絶対値を足し合わせたものなので、例えば、

ジャッジA:エレメント1を平均+1、エレメント2を平均-1と採点

ジャッジB:エレメント1を平均+1、エレメント2を平均+1と採点

としたとしても、ジャッジAとジャッジBは同じ逸脱度2で、評価が変わらないんですよ。でも問題になるのは全体から2点もずれちゃうジャッジBですよね?

 そこで、平均から最終的な得点がどのくらいずれるかわかりやすくするように、プログラムコンポーネンツと同様にプラスの逸脱度とマイナスの逸脱度を相殺すると、こうなります。

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 確かに、J2アメリカジャッジは確かに羽生くんに平均より8点も低いGOEつけてるんですけど、J1ジャッジはハビに+9.78、J6ジャッジはボーヤンに-7.67つけてるんですよね。

 これはばらつきの範囲内じゃないかなと思います。もちろん、わざとやった可能性はありますけど。

 ただ、これを規制しちゃうとなると、採点の自由度がなくなってしまうんじゃないかなと。あと、本当にJ2ジャッジが信念を持って羽生くんの点をそんなにつけなかった可能性もあるっちゃあありますし。話を聞いたら意外と「な、なるほど・・・そういう考えもあるのか・・・」ってなるかも?

 羽生ファンとしては、あの4S+3TでGOE+1はないでしょ!?って思うんですけどねー。

 

 世の中から不正がなくならないように、ナショナルバイアスも無くならないと思うし、バイアスがある前提でジャッジシステムを構築しないとだめなんでしょうね。そういう意味では現在の、GOE最高点と最低点の足切りや、各国から一名ずつジャッジを選ぶシステムは良く出来てるよなと思います。

 これ以上バイアスを減らすとなると、例えば五輪とか世界選手権では選手と同じ国のジャッジは審査できないようにするとか…?

 うーん、ISUの会長さんもナショナルバイアスについては問題視していると聞きますし、審査の自由度を保ちつつ、ナショナルバイアスを排除できるような名案が生まれるといいですね。